酢飯になりたい。

全部嘘という事にしてください。

友人ヤスが統合失調症を発症した話2~自殺を仄めかされる

それから、今までほとんど連絡をしてこなかったヤスがめちゃくちゃ連絡してくるようになった。

最初のうちは仕事の愚痴みたいなものが多かった。

【俺はとても仕事ができるから、先輩たちに疎まれている】

【毎日朝早く出て夜遅くまでやっているのに認めてもらえない】

【みんなが俺の悪口を言ってる】

大体そんな感じの内容が、文脈を変えてどんどん入ってきた。

あとは、ゲームのストーカーなどの話だ。

【まだゲーム内でストーカーされていて怖い】

【このメールも監視されている】

みたいなやつだ。

以前スルーした僕も、流石に、おやおや様子がおかしいぞ。と思い始めた。

それから毎日毎日【ねえ、】とだけ呼びかけるメールが入り、【何で返事してくれないの?】【寂しい】などという、メンヘラ彼女みたいなメールが入る様になってきた。

電話もガンガンかかって来たし、パソコンを立ち上げれば、スカイプのチャットに連絡が来た。

その時点で無視を決め込めばよかったのかもしれないのだけれど、僕は適当にそれらしい返事を返していた。

【そんな先輩に疎まれるなんて、大変だね】

【もう少し手を抜いて仕事をした方が良いよ】

【悪口は余り気にしないほうがいいんじゃない?】

【あんまりストーカーが酷いなら警察に相談してみたら?】

とにかく、面倒ごとが嫌いなんだ。僕は。

でも、寝ても覚めても連絡が来る状況にそろそろ限界になった。

僕はそこでやっと、共通の高校の友達マッチャンに相談する。

「なんだこれ……」

山ほど来たメールを見せると、マッチャンは絶句していた。

「いつから?」

「ひと月前くらいから、徐々に」

「病気だろ」

「だよねえ」

だとしても、僕にはどうしていいかわからなかった。

でもなんと、その年、同じ工業高校を卒業したマッチャンの弟がなんと、ヤスと同じ会社に入社したのだという。

マッチャンの弟も、僕らと同じ工業高校卒の就職組だった。

高卒就職した人ならわかると思うけれど、高校の就職先の求人を持ってくるのは毎年同じ会社が多かったりする。毎年一人ずつ、同じ高校の新入社員を入れるのだ。就職先が被るのはそんなに珍しい事じゃなかった。

「オレ、とりあえず弟に聞いてみるよ」

同じ会社なら状況がわかる。そう思ったのだけれど、次の日の夜に『ごめん。わかんなかった』とマッチャンから連絡があった。

マッチャンの弟は部署が全然違って、状況なんてほとんどわからなかったらしい。

他部署の人に聞いてもらえばわかったのかもしれないけれど、新入社員である人の弟にそこまで聞いてもらう事は僕にはできなかった。

 

全く何もわからなかった僕たちは、とりあえず次の日曜日に地元のガストで夕飯を食べていた。

「ごめん」

改めてそう謝るマッチャンに「いいって、寧ろ弟に変な事さしてごめんね」と僕も謝った。

そもそも、考えてみれば会社の状況を聞いたところでどうにかなるとも思えなかった。

もちろん、マッチャンとガストでチーズインハンバーグを食べている間にも、ヤスからはメールが来ていて、二人で話をしながら返事を返していた。

それで、ひとまずヤスの実家に電話をかけてみようという話になった。ヤスの家はちょっと複雑な事情のある父子家庭だったんだけれど、僕はヤスの家にはよく遊びに行っていたし、父親とも面識があった。

でも、何故それを早く実行しなかったのかと言うと、僕はヤスの家にはいったことがあったけれど、実家の番号は知らなかったのだ。友達の実家の番号なんて、普通知らないだろう?

試しにじゃんじゃんくるヤスのメールを返す時に聞いてみたのだけれど【なんで教えなきゃなんないの?】と言われてしまって上手く答えられなかった。

その頃には、ヤスのメールは更に悪化していて、最新のメールでは、

【俺最近すごいんだ、人の気持ちがわかる様になった】

だなんて言っていた。

まともな返事があるときもあったけれど、支離滅裂な事のほうが多くて、マッチャンが居なかったら僕だってそろそろおかしくなっていたかもしれない。

ちなみに、彼の病気が統合失調症では? と言う事にはその頃には気が付いていた。

思い込みと幻聴の症状がネットで調べた通りだったのだ。

僕らは、もうこうなったら次の休みにヤスの実家に突撃しようという話をまとめていた。

その時だった。

【誰か、黒い人が来る。こっちに来る】

ヤスから、ちょっと怖いメールが入った。

【怖い人ってだれ?】

僕が返事をすると、

【怖い人が僕を殺す、入ってくる、僕は死ぬ。死ぬから】

そんな不穏なメールがきて、それっきりぷっつりと連絡が途絶えた。

慌てて電話をかけたけど、電話にもでない。

「どうしよう」

僕が言うとマッチャンは「今からヤスのところに行こう」と言った。

その日は確か、日曜日で次の日も仕事があり、その時はもう十時を回っていた。

地元からヤスの家までは車で約一時間半。僕はガストまで自転車できていたけれど、マッチャンは車だった。マッチャンがその気なら電車の時間なんか気にせず、すぐに行くことはできる。

でも、明日の仕事にも響くし、正直僕は嫌だった。

けれど、僕はグーグル検索によって統合失調症にかかった人は三割の確率で自殺しているという情報を得てしまっていた。

このままヤスは自殺するかもしれない。今日もしも、ヤスが死んだら絶対に後悔する。

「うん。行くしか、ないよね」

僕は意を決して、マッチャンの車に乗り込んでヤスの家に向かった。