友人ヤスが統合失調症を発症した話~変なメール編
【mixiで俺の名前出した記事、消して】
就職して三年目の春。高校時代の同級生ヤスから、久しぶりにメールがきたと思ったら、そんな内容だった。
当時mixi全盛期で、高校時代の友人はみんなmixiをやっており、少し疎遠になってもそこでお互いの動向を知っていた。
皆、インターネット怖い、を頭に叩き込まれた世代だったので、友人のみ公開でしかやっていなかったし、それも殆どがリアルの友人であり、その上で、ハンドルネームをつかうという、徹底してインターネットリテラシー的なものを守っていた。
もちろん、ヤスも名前から連想もできないようなハンドルネームを使っていたし、名前を出したと言っても、僕は共通の友人たちへの報告的に、ヤスのハンドルネームを出していただけだった。それも最後に名前をだしたのはずっと過去の記事だ。
【いいけど、何で?】
てんで理由がわからなかったので僕はそう返す。
【お前のせいでネトゲでストーカーされてる】
意味の分からない返事だった。
ヤスはその頃、ネトゲにはまっていたらしかった。なんていうゲームかは覚えていないが、こう、ほのぼの日常を過ごしたり、チーム組んでモンスターと戦う的な、なんかそんな感じのゲームだったと思う。
【僕のせいって、どいういうこと?】
【お前のせいかは、わからないけど。お前のせいかもしれないから。お前くらいしか俺の情報をネットに流してないから】
???
意味不明だ。僕は面倒になってヤスに電話をかけた。
「なに? どういう事?」
『ネトゲで、ストーカーされてんだよ』
ヤスはメールと同じ言葉を繰り返した。その時の声色は普段と変わらなかったと思う。
「ストーカーって? どんな? ゲーム内で付きまとわれてるってこと?」
『そう。ゲーム内で付きまとわれてるし、その上盗聴器だってしかけられた』
「盗聴器って? どこに?」
『家の音を聞かれてる。ネット通して』
それはマイクをつけてそちらから発信しない限り無理なのでは?
僕はそう思ったけれど、ヤスはオタクの癖にインターネットにとても疎かったし、疎い割に、自分のほうが詳しいと思い込んでいる節があった。だから、そんなわけない、なんて言ったら逆上するタイプだった。
だから、なんだか面倒になって、「そう言う事もあるのかもね」と答えた。
『盗聴器をしかけるのに、お前の日記が役に立ったのかもしれない』
ヤスはそれから、そう支離滅裂につづけた。
「でも、フレンドのみ公開なのに?」
『お前、フレンド多いだろ。情報が洩れるならお前だ』
そう言っても、僕のフレンドの数は確か精々30人くらいで、中高の同級生と、趣味のオフ会で会った人たちばかりだった。それでも、フレンドが一桁だったヤスには多く感じられたのかもしれない。
「そっか。じゃあとりあえず記事は消すよ」
僕には意味がわからなかったけれど、丁度そろそろ出かける用事があったし、話を切り上げたかった。
『そうしてくれ』
満足そうに返事をしたヤスに「じゃあ、これから出かけるから」と返して僕は電話を切った。
ヤスはもともと、支離滅裂なことを言い出す事があったし、僕もそれに適当に相槌を打つことが多かった。
それと比較しても、この時は明らかにおかしなことを言っていたのだけれど、僕はヤスとも少し疎遠になっていたし、面倒くさいが勝ってしまったのだ。
この日以降、ヤスはどんどんおかしくなっていった。