酢飯になりたい。

全部嘘という事にしてください。

友人ヤスが統合失調を発症した話3~ヤスの家へ

僕とマッチャンはヤスの家を訪ねるべく、深夜の高速道路を走っていた。

殺されるだとか死ぬだとかの連絡を最後に、ヤスとは未だに連絡がつかない。

「もう死んでたら行っても開けてもらえないんじゃない?」

僕の言葉にマッチャンも、「根拠もないのに救急車って呼んでもいいのかな……」と不安げだった。

黄色い救急車が存在したらいいのにな」

黄色い救急車とは都市伝説である。精神病の患者を運ぶ救急車は黄色いのだという、ただそれだけの。でも黄色い救急車が実在すれば迷うことなく連絡をしていただろう。でも実際にそんなものはないと僕は知っていた。

因みに後から調べたら、こういう時は民間救急センターのようなところを頼ればよかったらしいのだが当時の僕らはそんなところがあるなんて知らなかった。

「包丁振り回したりしてきたらどうしよう」

マッチャンにそう言われた僕は精神を病んだ友人が包丁を振り回してきた場合についてグーグルで調べた。

「そう言う時は警察呼んでいいって」

今思えば、どう考えても包丁を振り回すやつと対峙したら警察を呼べばいいのだが、僕らは二人ともかなりテンパっていたので調べなければわからなかったのだ。

「どっちか一人は一歩さがって、すぐ外に出て警察を呼ぼう」

ドアを開けてくれなかった時の対策として、マッチャンの弟にも連絡した。ヤスと同じ会社に勤めているマッチャンの弟は、ヤスと同じ寮には住んでいなかったけれど、寮に住んでいる友達に連絡して、場合によっては寮母さんに鍵を開けてもらう算段となった。

様々な可能性を想定したのち、夜の11時過ぎに僕らはヤスの部屋の前に到着した。

意を決して、チャイムを押す。

ピンポーン

軽快な機械音がして、すぐにドアが開いた。

僕とマッチャンは身構える。

「えー、どーしたのお? きてくれたのお?」

部屋から出て、僕らをみたヤスは今迄聞いたことのない間延びした甘えたような口調で言って、にこにこしていた。

「とりあえず、あがりなよお」

拍子抜けだった。

僕とマッチャンはとりあえず、言われるがままヤスの家にお邪魔した。

「いまねえ、てづくりのパフェにはまってるんだけど、たべるう?」

ヤスはそういうと、グラス、業務用アイス、コーンフレーク、缶詰のフルーツを、取り出した。

僕とマッチャンは、戸惑ったまま「あ、うん」「ありがと」と返事をして、3人でテレビを見ながらパフェを作った。

その時は確かニュース番組か何かがかかっていて、その内容に適当にコメントしながらパフェを作って食べた。

僕はヤスにいろいろ聞きたい事もあったけれど、何かがヤスを刺激してしまうことが怖かった。

マッチャンも同じ気持ちだったとおもう。

チキンな僕らは、ヤスの様子がおかしい事には何も言及することなく、そのままパフェを食べて、ヤスの家を後にした。

「あれ何? は? 何なんだよ?」

「意味わかんない意味わかんない」

僕らは車の中で混乱していた。

結局、頭の悪い僕たちは、夜遅くにわざわざヤスの家を訪ねたのに、何もすることなく家に帰った。

僕の携帯には相変わらず、毎日支離滅裂なメールが入ってきた。

変わったことと言えば、マッチャンの携帯にもヤスから毎日同じようなメールが入るようになったことだった。

マッチャンには今思い返してもすごく申し訳ない。

次の日仕事がある夜中に、車を運転させてヤスの家までいかせた挙句、僕と同じような被害を受けるようになったのだから。